2012年11月5日

県立美術館移転に対する、県の回答のお粗末さについて

 秋田県のウェブサイトに、2010年2月23日寄せられた県民の声に対する県の回答のお粗末さは酷いものがあった。

 ある県民が、県立美術館の移転について寄せた、「美術館は市街地にあるより、緑に囲まれた所にあってほしい。緑豊かな秋田であればなおさらです。何のために移転するのか、誰が望んでいるのか説明してほしいです。多額の税金を使う無駄な行政はしないでほしい。しっかりゆっくり審議してください。県民にも納得のいく説明をお願いします」という声に対する県の回答は、次のようなものであった。

 はじめに、県立美術館の移転は、秋田市、県、再開発準備組合、商工会議所の四者による協議の中で、整備方針について合意に達したものだ。財団法人平野政吉美術館に対して、再開発準備組合から移転改築にかかる要望書の提出があり、県も財団法人に対し移転展示の要望書を提出した。これらに対し、財団法人から移転を受諾する旨の回答があり、移転改築の流れが決まったものであることをご理解いただきたい。とあった。

 「官」と「業」による協議だけで、美術館移転の方針が合意され、財団法人平野政吉美術館に対して、再開発準備組合、県が要望書を提出し、財団が移転を受諾し、移転改築の流れが決まったのだと言っている。県民の声、ニーズは反映されなくてよいのか。さらに、この再開発準備組合には、組合に数億円貸し付けているゼネコンも含まれている。また、財団は積極的な理由で移転を受け入れたのではなく、これ以上、待たせると組合と行政に迷惑をかけるという消極的な理由で、採決を急ぎ、受託している。官・業の圧力で受託させられたも同然と言える。

 さらに、現美術館の老朽化、入館者数の少ないことを移転の理由に挙げているが、老朽化は、現県立美術館の現地での改修によって対応が可能であるし、入館者数の問題は、美術館の広報の問題であり、十分な予算を取ることで改善可能なことである。多額の公費を費やし、移転しなければならない理由にはならない。

 また、「新県立美術館基本計画策定委員会」が基本計画を策定したことを挙げているが、この委員会の委員は、県の裁量で人選されており、美術館の設計者などを県の既定方針通りに決めただけであったことがその後分かっている。

 また、移転改築には、権利変換方式により、県有地の評価額に加えて約9億円の県費負担が見込まれているが、現美術館を将来、改築する場合、経費はこれ以上になることが予想される。と言っている。

 移転改築には、県有地との相殺分を含め、20億円の費用が掛かることを明確に伝えずに、現県立美術館を現地で改築した場合、9億円以上掛かることだけを伝えているという有様だ。

 最後に、中央街区の賑わい創出に向けて一刻の猶予も許されない状況となっている。これ以上、再開発を先延ばしすることは避けなければならない。と言っている。

 美術館の移転新築を、文化論ではなく、街の賑わい創出と言う、「賑わい論」で考えていることが分かる。美術館建設の本来の目的、意義が理解されているのか疑問である。
 美術館の建設に、賑わい創出とか、賑わいに繋げたいといった「賑わい論」を絡ませ、多額の公費を使ったハコモノ造りをしただけではないか。

 「何のために移転するのか、誰が望んでいるのか説明してほしいです。多額の税金を使う無駄な行政はしないでほしい。しっかりゆっくり審議してください」と言う県民の声に対する回答になっていたのか甚だ疑問である。




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2012年11月4日

県立美術館移転の根拠、四者合意とは何なのか

 秋田県立美術館の移転について、県職員が発表したプランを四者協議で合意に至ったものであると、県や市がしきりに言っていたが、この四者合意とは、何なのか。
 四者とは、秋田県、秋田市、再開発準備組合(当時)、秋田商工会議所のことである。この四者が、2007年(平成19年)11月27日に、日赤・婦人開館跡地再開発で、県、市、民間が六つの施設を整備することで合意し、公共施設については、「『県は(県立美術館の美術品を所有する)財団法人平野政吉美術館(当時)と調整を図り、藤田嗣治作品を生かした県立美術館を整備』『市は市民の芸術・文化活動、学生の交流、子育て支援を見込んだ施設を整備』すると明記した」(2007年11月28日、秋田魁新報)ということを指している。
 しかし、四者の合意は、秋田県、秋田市という「官」、当時、組合に億単位の貸付をしていたゼネコンを構成員に持つ再開発準備組合と、秋田商工会議所という産業界、「業」が合意したことを示しているにしか過ぎない。県民意思の反映ではない。
 多額の公費が投入される県や市の公共公益施設について、「官」と「業」の癒着した協議の中だけで合意し、施設の建設を決めることがあってよいのか。
 また、県立美術館の移転に関しては、利用者の多くは県民であり、国内外からの来館者である。美術関係者や会社員、工員、店員、教員、学生、主婦などの多様な愛好者の声、ニーズに真剣に耳を傾けることなく、性急に、現県立美術館の藤田嗣治作品を移設するということを「官」、「業」の癒着だけで決めることがあってよいのか。このような行政は県民、市民のニーズからかけ離れたものではないか。
 この「四者合意」という「官・業癒着」は、現県立美術館の美術品の所有者である財団法人平野政吉美術館(当時)に、大きな圧力をかける存在となり、財団は、当初、原則移転反対であったが、結局、現美術館と同じデザインの建物の合成写真まで見せられ、受け入れた。
 このような官・業の協議にしか過ぎない四者の協議、県民の代表が参加していない協議による合意を根拠にした県立美術館の移転は、正当なものと言えるのか。









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